「のびのびとした環境で子育てをしたい」。そう考えて移住を検討する一方で、「頼れる親戚や友人がいない」「信頼できる子育て情報が分からない」など、移住先での子育てに不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。
熊本市の子育てネットワーク「縁側moyai」は、そんな悩みを持つママたちが、子育てのさまざまなシーンで支え合ったり、情報を共有し合ったりする場を設けることで、〝孤育て〟を防ぐ活動を行っています。その取り組みをご紹介します。
代表を務めているのは、小学5年生と、小学2年生の双子の3児を子育て中のオノユリさん。自身も東京から熊本への移住ママです。2009年に、同じく東京出身のご主人の仕事の関係で、熊本市に引っ越して来ました。熊本で第一子を妊娠・出産して慣れない土地での子育てが始まり、行政が実施する子育てサークルに参加。そこで、移住ママが子育てに孤軍奮闘する姿を目の当たりにしたそうです。
子育てサークルはママ友を作る絶好の機会。でも、サークルが開催されるのは月に1回で、イベント中はそんなにたくさん話せないし、こどもの体調不良などで予定が合わず2・3カ月参加できないことも…。月に1回のサークルで、ママ同士がつながりを持つのは難しいと実感しました。また参加者は、周りに甘えたり相談したりするのが苦手で、1人で子育てを頑張っている人が多くて。「お互いに相談し合えたら、子育てがもっと楽になるのになあ」と思い、ママ同士がつながれる場所をつくることにしました。
こうして、ママたちが集う場所としてオノさん宅の縁側を開放し、週に1〜2回イベントを行う子育てネットワーク「縁側moyai」の活動が始まりました。2013年のことです。
「縁側moyai」の「moyai(もやい)」は、「複数の人間が共同でひとつのことをする」という意味。その名の通り、ここは、子育てを支える側と支えられる側が明確に分かれておらず、「みんなで支え合いながら、楽しく子育てしよう」をモットーとしています。
「縁側moyai」は、60名を超える活動ボランティアが運営を担い、その中の8名の運営委員会メンバーが今後の方針などを考えています。そうしたメンバーもみんな子育て中なので、実際の活動では、参加したママにも運営のお手伝いをお願いしています。例えば、イベントで誰かが料理をしていたらそのこどもを他のメンバーが子守りしたり、準備に買い出しが必要だったら皆に声をかけ、時間があるメンバーが行ったり。大事にしているのは「お互いさま」の気持ち。ここでの活動を通して、「1人で頑張らなくていい、困ったときは周りを頼っていいんだ」ということを感じ取ってもらえたらうれしいですね。
「縁側moyai」の活動内容は、食育や季節行事をテーマにしたイベントや農業体験、ママたちの口コミサイトの運営など多岐にわたります。取材した日は、予約不要で誰でも立ち寄れるイベント「きてきて」が開催中で、ママたちがこどもを子守りし合いながら、熊本の郷土料理「だご汁」を味わっていました。
立ち上げ当初の参加人数は10名ほどでしたが、口コミを中心に輪が広がり、10年目を迎えた今では、moyai仲間のLINEアカウントの登録人数が550名を超えています(2022年12月現在)。
運営するのは大変なことも多いですが、私自身、「縁側moyai」の存在に支えられているので続けることができています。実家が県外で、夫も単身赴任中のため、用事がある時にはmoyai仲間にこどもを預かってもらうなど助けてもらえるので、本当にありがたいです。
「縁側moyai」のメンバーの半数は、移住や転勤で熊本にやって来たママなのだそう。運営メンバーであり、移住ママでもある亀井奈央さんと坂梨康代さんに、「縁側moyai」の魅力を聞きました。
亀井さんは2012年、結婚を機にご主人の出身地・熊本市に移住しました。
熊本で出産後、夫が仕事から帰ってくるのが遅かったため、毎日朝から晩まで幼いこどもと2人きり。こどもの預け先がなく、逃げ場のない日々に鬱々とすることも多かった中、「縁側moyai」に出会いました。美容院や歯医者に行きたいときなどに、moyai仲間がこどもを預かってくれ、自分の時間を持つことができたんです。しかも皆、昔のご近所づきあいのように、さらっと預かってくれて。「周りに頼っていいんだ」「子育ては完璧じゃなくていいんだ」と、肩の力がスッと抜けました。また、moyai仲間が背中を押してくれたおかげで、夢だった着物の着付けの仕事で開業することもできました。私は「縁側moyai」のおかげで人生が変わったと言っても過言ではありません。
また坂梨さんも2019年の結婚後に、ご主人の出身地・熊本市に移住。
引っ越してすぐに妊娠が分かったので、友達をつくる時間がなくて…。妊娠中に「縁側moyai」のイベントに初めて参加すると、メンバーが子育ての経験談などをとても親切に教えてくれました。出産後にお祝いのメッセージが届いたこともうれしく、「ここに私の居場所がある」と感じました。コロナ禍も、オンラインで他のママたちとつながることができたので、孤独を感じることはありませんでしたよ。また2歳のこどもも、ここに来れば年上のお兄ちゃんお姉ちゃんと遊べるので刺激を受けているようです。
オノさん、亀井さん、坂梨さんの3人に、「熊本市の子育てしやすいところは?」と質問してみました。
都市と自然の距離感がちょうど良いところと、水がきれいなところ、子育て世代に対して優しい人が多いところ。おかげで、のびのびと子育てできていますよ。
さらに、福岡出身の亀井さんはこう付け加えます。
私の地元の福岡よりも、キッズスペースがある飲食店の数が多いのもうれしいです。こどもを連れてご飯を食べられるお店がたくさんあるのは、ありがたいですね。
最後にオノさんに、移住を検討しているママへメッセージをいただきました。
見知らぬ土地での子育ては不安が多いと思います。ですが熊本市は、子育てするにはとても良い環境が整っていますし、「縁側moyai」もあります。メンバーは、私をはじめ、県外出身のママが多いので、「熊本あるある」など共感し合える話題も多いですよ。口コミサイトでは、医療機関やお出かけ先など、熊本市に住むママたちの生の声も紹介しています。「縁側moyai」のホームページからLINEアカウントに登録すると見ることができるので、ぜひ活用してください。
熊本はどうデスク ライター紹介
城 亜由美
じょう・あゆみ/熊本在住のライター・エディター。熊本・福岡の出版社、編集プロダクション、PR会社勤務を経て独立。生活情報紙やWebサイト、パンフレット等の企画、編集、ライティングなど幅広く活動。何度も言葉に救われた経験から、「心を動かす言葉をつむぐ」を大切にしています。思いつきではじまる、無計画な旅が好き。
熊本住居歴/29年