移住子育てママの孤立を防ぐ〜熊本転入ママの会 くまてん〜

子育てママにとって、見知らぬ土地へ移住した際、周りに知り合いがいないことは心細く、大きな不安です。
しかし熊本市には、そんな移住ママ達を厚くサポートしてくれる民間の団体があります。その団体「くまてん」が開催した、とあるイベントへお邪魔してきました。

おかあさんと赤ちゃん達が円を囲う

11月のある日、熊本市街地から市電で二駅のところにある「ウェルパルくまもと」1階の「市民活動支援センター あいぽーと」に、乳幼児を連れたママたちが続々と集まっていました。なんと約50組もの親子が集まり、会場はあっという間にいっぱいに!

ママたちは互いに初対面のようで、グループに分かれて挨拶や自己紹介をしている様子です。このイベントは、「熊本転入ママの会 くまてん」が開催した「転入ママウェルカム会」。参加者の多くは、熊本市で友達を作るために集まった転入ママたちなのです。

くまてん」は、転勤や移住などで「熊本へ転入してきたママやプレママが、スムーズに熊本に馴染み、まるで地元にいるような楽しい生活が送れる」をコンセプトにしたママ・プレママサークルです。周りに知り合いがいないと孤立してしまいがちな子育てママを、地域とつなげるために様々な取り組みを行っています。

くまてん代表 東山さん
代表の東山さん

この会を立ち上げたのは、代表の東山 恵子さん。自身も熊本への転入ママです。 沖縄で生まれ京都で育ち、営業職としてバリバリ仕事をしていたという東山さん。結婚を機に仕事を辞め、出産。ご主人の勤務先だった大阪から、転勤で縁もゆかりもない熊本市へやって来ました。2015年のことです。

当時、娘は1歳で手がかかる時期。周りに知り合いはいないし、結婚前は仕事人間だったので家事育児に苦手意識もあって。毎日娘とふたりっきりで何もかもうまくいかず、正直、育児うつの一歩手前くらいまで、追い込まれていたように思います。

そして、そんな自分の状況が「熊本市に来たせい」だと思うようになっていたのだそうです。しかし、このままではいけないと、娘さんを預けられる幼稚園をなんとか見つけます。すると持ち前の行動力を発揮して、子どもと遊びに行ける場所、子育て支援を受けられる場所など熊本市のいろんな情報を集め、行動範囲もぐんと広がりました。いろんな場所へ出かけるうちに熊本市になじんできて、ようやく「熊本市はいいところだ」と思えるようになりました。

そのときに気付いたんです。熊本市には子育てファミリーにとって魅力的な場所がたくさんあるのに、ネットなどで得られる情報が少ないということに。他の転入ママが、熊本市で私と同じような辛い日々を過ごすことなく、転入してきた最初の日から『熊本市っていい場所』と思ってもらえるように、転入ママに役立ついろんな情報を1箇所に集めて見られる場所が必要だと思ったんです。

くまてん運営スタッフのみなさん
「くまてん」キャストの皆さん

そうして2017年に立ち上げたのが「くまてん」です。いち子育てサークルに収まらず、「中央区地域コミュニティづくり支援補助金」やさまざまな基金を受けながら、「キャスト」と呼ばれる企画スタッフで運営する団体に育て上げました。今は、転入ママから熊本市で子育て支援を行う人まで、様々な立場・キャリアを持つ10名のキャストが関わっています。万が一、今のキャストが転勤で熊本を離れることになったとしても「くまてん」がしっかり残るよう、しっかりした団体の形に整えたのだそうです。

ホームページで転入ママに役立つ情報を発信、共有するほか、子ども連れお出かけマップを作ったり、ランチ会をして転入ママ同士が交流したり、親子料理教室やママの就職相談を行ったり…。時には、路面電車がない地域からきた親子のために、市電を貸し切って「市電に慣れる」ためのイベントを行ったこともあるそう。同じ転入ママだからこそわかる心細さやニーズを捉え、様々な企画や取り組みを行っています。

そして、転入ママにもっとも支持されているイベントが、転勤の時期に合わせて年に2回開催されている、この「転入ママウェルカム会」なのです。イベントの様子を覗いてみると…。

地域ごとにグループにわかれて仲を深める様子

来場した親子は、細かくグループに分けられています。なるべく「ご近所さん」の友達を作るために居住地の校区ごとに区切っているそう。子育て支援の協賛企業によるブースや、ゆるキャラによるダンス・撮影会、キャストによる「熊本弁クイズ」など、楽しい時間が進みます。フリータイムではみんな早速情報交換。ママ同士も、子ども同士も盛り上がっています。転入ママだけではなく地元ママも参加。また、何度も参加しているリピーターも多くいます。みなさん、それぞれの交流で熊本とのつながりを築いているようです。

くまてんでお友達ができたお母さんとお子さん
樫本さん、朝陽くん(1歳)

今回、2回目の参加だという転入ママ・樫本さんに話をお聞きしました。

私は広島県出身で、夫の転勤で2 年前に広島から熊本に来ました。熊本は修学旅行でしか来たことがなく、これまでほとんど縁がなかった土地。知り合いを作ろうと『転入ママウェルカム会』に参加したら、すぐ近所で子どもの年齢も近いママ友ができ、この会がきっかけで知り合いが一気に増えました。本当にありがたかったです。もっといろんな情報交換をしたいと思い、再び『ウェルカム会』に参加したのですが、実は在宅ワークに関する相談を受けてもらえていて。友人を作るだけでなく、仕事探しもフォローしてもらえるなんて、本当に転入ママにとって至れり尽くせりで、ありがたい場所です!

参加者の満足度がとても高いようです。 東山さんも、想像以上の反響の大きさに驚いているそう。

くまてん参加のお母さんと子どもたち

うれしかったのが、私たちの活動を受けて、ある転入ママが『熊本に歓迎されているように感じる』と言ってくれたこと。さらに、事前にネット検索で私たちのホームページを見て熊本がとてもいい場所だと感じ、『安心して熊本に行けると思った』と言ってくれたママもいました。最初からプラスのイメージで熊本市に来てくれて、前向きな気持ちで熊本市での子育てを始めてくれることが、私たちの大きなやりがいです。

東山さんやキャストの想いや取り組み、一つ一つが、「転入してくる子育てママを歓迎してくれる街」としての包容力を、熊本市にもたらしてくれているようです。転入ママが頼れる場所がある、その存在だけでも、子どもと共に移住してくる人の大きな支えになるはずです。

最後に、東山さんに聞きました。「熊本市は、住みやすいですか?」

今は、私も娘も熊本市が大好きです。大らかな土地柄で治安もいいし、子どもと遊びに行ける場所もとても多いし。自然が豊かで、ちょっと車を走らせれば海も山もいっぱい。そして美味しい食材が安く手に入る!子育てしやすい街だと実感しています。
私がこのような活動を行うことができたのも、辛い経験を経て熊本市を本当に好きになれたから。もし、自分の地元にずっと住んだままだったら、ここまでのことはできなかったと思います。

赤ちゃん同士の交流

くまてん

公式HP:http://kumaten.org/

開催状況はくまてん公式HPをご確認くださいませ。

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熊本はどうデスク ライター紹介

ライター中川さん

中川 千代美

なかがわ・ちよみ/長崎生まれ、熊本在住。地方出版社に勤めたのち、「チヨミ編集事務所」として独立。地域の子育て情報誌や生活情報紙をはじめ、幅広いジャンルの編集・ライティング・企画を手がける。
食欲・物欲・お出かけ欲・温泉欲・ビール欲が赴くままに熊本・九州を駆け回る日々。趣味は二胡。
熊本住居歴/22年