「こどもたちに見せたい景色」が
変わった

移住と農業。
離れた地元が理想的な場所だった。

熊本市河内町出身の福島さん。就職を機に福岡へ移住、結婚し子育てをしていく中で、13年ぶりに熊本へUターンを決意。実家が農家ではないけれど、農業を仕事として選んだ理由とは。 そこには家族と地元を思う気持ちがありました。

農場で作業をする男性

戻ってきて分かる
故郷の美しさ

ー 福島さんはUターンされて農業を始められたという事ですが、ご実家は農家ではないんですよね?

河内でミカンや海苔を育ててたら、大体「後継ぎ」って思われますが、私はそうではないんです。元々、家の土地1000m²のうち、半分は宅地、残りは小さな畑。そこで祖父がミカン畑をつくっていました。ただ、農家というわけではなく、メインの仕事の傍らで作物を育てる、という形。父はサラリーマンだったし、私も最初は農業する気は全くありませんでした。

ー そうなんですね!どのような経緯で帰ってこられたのでしょう?

熊本の大学を卒業後、地元の会社に就職し、配属で福岡へ。そこから13年福岡で暮らしました。正直、熊本に比べて福岡は住みやすい土地でとても気に入ってました。熊本より都会で車がなくても不便に感じない土地柄だし、食べ物がおいしい。欲しいものに手が届く距離感がほどよく、福岡での生活に満足していました。
そんな折、結婚をして、こどもが生まれ…と、自分を取り巻く環境が変わっていき、封をしていた気持ちに気づいたんです。自分は長男だから、いずれは熊本に戻ろうと思っているのに、今は福岡で働いている…とモヤモヤした気持ち。次女が生まれたことがきっかけで「この子たちを育てるなら、自然に囲まれた田舎で育てたい」という思いが溢れて、熊本に帰ろうと決意しました。
きっと、私の小さい頃に見ていた景色がそういう思いに駆り立てたんでしょうね。

自然の中で遊ぶ姉妹

ー 熊本市の中でも河内という土地は、自然が豊かですもんね!

そうなんです。有明海が近く、段々畑はたくさんミカンの実で彩られており、海苔の養殖も盛んです。水が美しく、至るところに花がたくさん咲いています。
自宅と畑が近いので、サラリーマン時代よりも子供と過ごす時間が充実しています。子育てするには自然がいっぱいの環境。その中でこどもたちが考え工夫しながら遊ぶ光景が健やかで、戻ってきて良かったなぁと感じています。
今では妻と4人のこどもと両親と祖母の9人家族。毎日賑やかに暮らしていますよ。

ー そんな中で、家業ではない農業を仕事にしようと思ったきっかけはありますか?

実は帰熊を決めたものの、農業をしようと決めていたわけではないんです。熊本で就職するために、失業保険をもらいながら宅建の資格を取って準備をしていたんですよ。でも、農業への興味もあって、初めるなら体力がある若いうちの方が後悔しないのでは?と考えるようになりました。
「農業がしたい」と父の知り合いに相談を続けていくうちに、始められそうな畑が見つかりました。初期投資を抑えたくて、道具はなるべく安いものを…と探していたところ、農家を辞めるという人に出会い、一式安く譲ってもらえたんです。今思うと、周りの人にとても恵まれていました。本格的に農業をスタート出来たのは37歳。今は2.5ヘクタールの農地を借りてデコポンやミカンをメインに7種ほど育てています。

でこぽん

ー 生まれ育った河内に帰ってきて自然の豊かさを改めて確認できたからこそ、今までと違う生き方に興味が湧いたのかもしれませんね。
農業の世界は後継者不足が問題視されていると聞いています。河内ではいかがでしょうか?

私の世代では河内に戻ってミカン農家をやっている人は少ないと思います。だからこそ、地元に残って後継者として頑張っている先輩方や後輩、農家組合やJAの方々の組織をもったサポートが手厚いです。ただ、やりたいと思う人が積極的に動かない限り周りが手を差し伸べてくれるわけではないので、自分から動くことが大切だと思っています。

ー なるほど。協力関係になれる人が多いのも河内の良いところですね。
福島さんは「農業次世代人材投資事業」を利用されたと聞きました。

地元の後輩から就農支援制度の事を聞いて、市役所に相談に行きました。就農前の研修を後押しする「準備型」就農直後の経営確立を支援する「経営開始型」があることを知りました。私は年間最大150万円の支援を最長5年間受ける事が出来る「経営開始型」を利用させてもらっています。支援金で、農業に必要なトラックなどの購入資金に当てたりと、この制度があったから農業を安心して始められたと思います。本当に心強かったです。

「覚悟」と「勇気」を持てば移住も農業も楽しめる

ー 現在、移住されて4年目、農業を始められて3年目との事ですが、いい事も悪い事も含めて、今のお気持ちを聞きたいです。

Uターンで戻ってきた自分は、家族にも仕事にも環境にも恵まれて、本当に幸せを感じて日々過ごしています。もし「移住して農業をしたい」という人がいるなら、河内はぴったりな場所だと思います。私がこの地で農業を始めて良かったなと思うのは、人を取り巻く環境にあります。

河内は地域で人を育てていくという環境が昔からあり、他の地区より顕著に感じます。JAや地域主催の剪定講習会などもあり、そういった集まりで相談が出来ますし。どんな仕事でも、仲間がいた方が仕事はしやすいですよね。「農業をしたい」という人がいるだけでもとても貴重で、これからはそういう人達が絶対に必要なので、私は私がしてもらった事以上のサポートをしていきたいと思っています。

しかし、農業を生業にする事は「自然」と向き合うという事。台風や春一番のような突風を受けると、ひと晩で1級品が2級品に落ちてしまう事もあります。また、ミカンを育てるに当たって、作業しやすい畑ばかりではありません。段々畑は傾斜がきつい場所も多く、作業効率がすごく悪いんです。ですが、日当たりがよく風通しもいい。そういった場所で育ったミカンはすごく美味しいんですよ。大変さの反面、報われる瞬間がある。そういう所に農業の魅力があると感じています。こういった作業が難しい畑をどうしていくのか、私たち若手の今後の課題でもあります。

みかん畑で作業をする男性

ー 生まれ育ったこの土地で、農業を楽しみながらやっている福島さんの姿は、きっといろんな人に勇気を与えていると思います。今後やりたい事はありますか?

いろんな品種のミカンを作っていますが、それだけに限らず、別の品種も育てていきたいと考えています。その味を自分でも味わっていきたいし、世に広めていきたいです。また、河内の耕作放棄地を活用する活動を地域の農家の方たちと取り組んでいきたいです。自分が持っている畑も含めて、将来息子が「やりたい」と言った時にすべて仕上がっているような環境に整えたいと思っています。

ー これから移住を考えている人、そこで農業を始めたいという人にメッセージをお願いします。

自然に囲まれた環境でこどもを育ててみると、こどもは親が思っている以上に伸び伸びと育ってくれます。移住も農業も「覚悟」と「勇気」を持てば、仲間も環境も整っていくものです。「どこで」生きていくか、「どんな」仕事をするか、という生き方の選択肢の一つとして、農業ってアリかなと思ってもらえれば嬉しいですね。

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お名前:福島さん
取材時の年齢:30代
ご職業:農業
移住歴:4年目
家族構成:妻・長女(6歳)・次女(3歳)・長男(2歳)・三女(1ヶ月)・父・母・祖母
移住前の居住地:福岡

熊本市で農業を始められたい方へ

熊本市では就農直後の経営確立を支援する資金を交付する「農業次世代人材投資事業(経営開始型)」(条件あり)や 農地の確保・経営計画等のご相談対応を行っています。
熊本市での新規就農については、熊本市農業支援課(℡096-328-2384)までお問合せください。