最近ニュースなどでよく耳にする「テレワーク」。「テレワーク」とは、労働者が情報通信技術を利用して、自宅やコワーキングスペースなどで業務を行うことを指します。昨今は「働き方改革」や新型コロナウイルスの影響で、全国各地の企業・団体で「テレワーク」の導入が広まりつつあり、熊本もその例外ではありません。
働く場所を柔軟に選択できる「テレワーク」という働き方は、同時に暮らす場所の選択肢も増やすことができ、移住へのハードルを下げる要素にもなりうるものです。
ここでは「テレワーク」に取り組む企業と、それらの企業で実際に勤務する方々の体験談をご紹介します。
熊本市の自宅で、全国各地にいる同僚と働く
【左官さん】実際にやってみると全然問題なくて。通勤時間がないのはすごく楽ですね。通勤していた頃はみんなでランチに行ったりしていて、それがなくなったのは残念な面もあるけど、それ以外はいいことが多いです。
こう話すのは、昨年熊本市に移住してきた左官尚美さんです。左官さんは『株式会社キャスター』の本社(=宮崎県西都市、https://caster.co.jp/ 、以下キャスター)で通勤勤務していましたが、個人的事情で引っ越すことに。その時、会社からテレワークでの勤務を提案されました。現在担当する業務は、様々な所在地のクライアント企業にかかってくる電話を取り次ぐ業務です。全国各地でテレワーク勤務をする5〜6人でチームを組み、常時30〜40のクライアントを受け持っています。
2014年設立のキャスターは、「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げ、アウトソーシング事業のオンラインアシスタントサービス「CASTER BIZ」など、リモートワークを基軸とした人材サービスを幅広く展開し、2016年には総務省「テレワーク先駆者」にも選出されている企業です。 同社広報の勝見彩乃さんにお話しを伺いました。
【勝見さん】当社では約700名のメンバーが、ほぼテレワークで勤務しています。メンバーの前職は、会社員だけではなく、販売員や教員など様々。住む場所ももちろん問わず、採用面接はオンラインで行います。スポット勤務もあるので、子育てや介護をしながらでも時間をやりくりして仕事をすることができるんです。テレワークは単に通勤しなくていいということではなく、今までなんらかの理由で仕事を諦めていた人にもチャンスがある働き方だと思います。
住んでいる場所やライフステージを理由にスキルや能力を活かせなかった方々にとって、「テレワーク」は新しい活躍の場を切り拓く選択肢となりそうです。 しかし、自宅において一人で業務を進める上で問題点などは無いのでしょうか。
【左官さん】困ったことなどがあれば、自分から積極的に発言することが必要です。またテレワークは通勤がなくて楽な分、自分でメリハリをつけることが重要だと思っています。規則正しい起床時間を心がける、勤務時間が終わったらPCを閉じてプライベートの時間に充てる、などは心がけて実行しています。
キャスターでは独自のタイムカードはあるものの、常時監視などは行わず業務の成果のみをみていくシステムをとっています。それは、例えば業務上行き詰まっていても、周りが気づくことができないということでもあり、より積極的なコミュニケーションが求められるようです。 では、一般的なオフィスであるような、業務以外の社内交流なども難しいのでしょうか。
【勝見さん】オンライン飲み会部があります(笑)。部署などで集まってWEB会議サービスを使って話をしながら、それぞれ自宅で飲むんです。年末にはVRイベントツールを使って、全メンバー参加のバーチャル納会を行いました。メンバーも役員もアバターで出てきて、リアルタイムでコメントが書き込めたりするんですよ。
ほかにも「雑談専用チャット」などを用意してちょっとしたことでのコミュニケーションを活性化することで、心理的安全性を担保する仕組みを取り入れていると言います。
オフィスにいなくても通常の業務が遂行でき、全国各地の同僚と交流が生まれるキャスターのテレワーク。オフィスワークでは得られない経験や、人と人との繋がりがありそうです。
熊本でも高まる「働き方改革」の機運
2016年の熊本地震をきっかけにテレワークを導入した企業があります。『ムーンムーン株式会社』(=熊本県熊本市、https://moonmoon.biz/ 、以下ムーンムーン)です。2011年に熊本で設立、現在は東京とニューヨークにも拠点を構える企業です。睡眠に関連する商品の企画から販売、サポートを行っています。
被災時の社屋は古いビルだったため倒壊寸前の状態になり、混乱の中、全員が2ヶ月の間、在宅勤務とならざるを得なかったそうです。その時、チャットの仕組みや勤務ルールなどが構築されました。
代表取締役の竹田浩一さんにお話しを伺いました。
【竹田社長】現在(新型コロナウイルス感染症対策として)テレワークで仕事をしているのは5名。いずれも小・中学生や幼稚園のお子さんがいるお母さん達です。部署もバラバラで、お客様対応センター、経理などのバックグラウンド、マーケティングもいれば商品開発部の人もいます。
テレワークで通勤時間がなくなり生産性が上がっている一方で、出社している社員に少なからず負荷がかかっているのも事実。その負荷を軽減するための仕組みづくりを模索しているそうです。
【竹田社長】例えば今回、思い切ってお客様からの電話応対をストップしてみたんです。クレームが来るのを予想していたんですけど、ほとんどのお客様が理解してくださいました。皆さんメールでご連絡くださるので、本当に助かっています。
「外部要因は変えられないので、内部で出来る事に取り組んで乗り越えていくことが大事」と語る竹田さん。同様の考えを持つ他の経営者からテレワーク関連の問い合わせが増えており、情報交換会も行っているとか。働き方を変えようとする企業は、熊本でも増えているようです。
子育てママを助ける「在宅勤務」という選択肢
ムーンムーンのテレワーク勤務は、実際どのようになっているのでしょうか。商品開発部に所属する久保田京子さんのご自宅にお邪魔しました。取材当日は、休校中の小学生・皓希(こうき)くんと幼稚園児の結希(ゆうき)くんが一緒に出迎えてくれました。久保田さんは2018年9月に入社。以前勤めていた貿易会社で培ったスキルを活かし、海外との取引が多い商品開発部に所属しています。
【久保田さん】弊社は子連れ出勤もOKだし、子どもの行事があるときは休みが取りやすい社風があります。子どもが急に熱を出した時には、在宅勤務も可能です。今回の新型コロナウイルス感染症における全国的な小学校・中学校・高等学校の臨時休校要請が出された時も、スムーズに在宅勤務という選択肢を選ぶことが出来ました。
ムーンムーンでは社員にノートパソコンが貸与されており、自宅にインターネットさえあればオフィスと同じ勤務環境がつくれます。海外企業とのやりとりなどにも支障は無いのだとか。始業時と就業時にはチャットでその旨を報告し、オフィスへの出勤時と同じように昼休みも1時間取るそうです。
【久保田さん】(新型コロナウイルス感染症対策で)子どもたちが自宅にいるという状況で、働きながら子どもと一緒にいれてとても安心感があります。私は仕事をしながら子どもの勉強を見ることができて、また子どもも私が家にいることを楽しんでくれているので、新鮮な気持ちです。
「テレワーク」は自分らしい生き方に気づくきっかけ
熊本市が昨年開催したテレワークのセミナーには、企業だけでなく個人の参加も多数あったとのこと。「自分にあった働き方に出会いたい」「可能性を探りたい」というニーズが高まっているようにも思えます。
「テレワーク」が普及していくことで、働き方の可能性が広がり、暮らす場所の選択肢も増える。それは「今まで出来なかった」または「思ってもみなかった」、自分らしい生き方に気づくきっかけになるのかもしれません。
テレワークなど多様な働き方の機運が高まる、熊本への移住はどう?
熊本はどうデスク ライター紹介
大塚 淑子
撮影・ライティング
おおつか・よしこ/1985年生まれ。福岡県八女市出身。大学在学中より好きな写真を気まぐれに撮り集め、好きな文章とも関われる雑誌編集者を目指す。フリーペーパーの編集を経て、熊本の出版社『ウルトラハウス』に入社後副編集長を務める。2019年よりフリーの編集者・フォトグラファー・ライターとして活動。
熊本住居歴/13年
濱門 慶太郎
編集
はまかど・けいたろう/カラクリワークス株式会社所属。1974年生まれ。熊本県合志市育ち、福岡在住。多種多様な広告、編集、ライティング業務を経験。いつかは熊本との二拠点居住!と、最近自動車免許を取得しました。