熊本駅と繁華街のちょうど中間あたりに「河原町繊維問屋街」はあります。最近では地域の人も巻き込んで、まちと人を繋ぐ新しい取り組みが行われているとのこと。その活動の中心にいるおふたりにお話を伺ってきました。

熊本市電河原町電停を降りてすぐ、大きなコンクリート壁で覆われた建物が河原町繊維問屋街です。建物の奥へ一歩足を踏み入れると、昭和の面影を残した空間に個性豊かな店舗が軒を連ねています。その中のひとつ、同じ建物の2階に隣同士で事務所と店舗を構えているのが、建築士の白橋祐二(しらはしゆうじ)さん(左)と飲食店オーナーの八重森好和(やえもりよしかず)さん(右)。

白橋さんは、鹿児島で生まれ大学時代を熊本で過ごしたのちに東京・大分を経て熊本へ帰ってきた移住者。大学時代から変わらない問屋街の独特な雰囲気が決め手となり、事務所を構えたのだそう。河原町繊維問屋街を、挑戦が繰り返される“生きた建物”にしたいと語ります。
「大分からの引っ越しを考えていた時に思い出したのが、大学時代に訪れた河原町でした。何年かぶりに来てみたら、2016年の火事以降、借り手がついていないテナントが多くて。自分たちで手を動かすのであれば自由にしていいよとのことだったので、こりゃいいぞと。火事自体はネガティブなことですが、そこから新しく今の時代に合わせた建物や部屋に変えられるということは、とても魅力的でした。」

そこから、新しい取り組みに至るまでにはどのような経緯があったのでしょうか。
「やはり、八重森さんがきて『凹凸タコス』ができたことは大きかったですね。あったらいいなと思っていた、まちの人がまちのことを話せる場所ができました。長くここに住む人も移住者も関係なく、気づいたらまちについて話している、みたいな。河原町でのイベントも、ここでのふとした会話から自然発生的に生まれてきたように思います。八重森さんのコミュニケーションやその空気感は必要不可欠でしたね。」

八重森さんは東京出身、大分での地域おこし協力隊任務を経て熊本へ移住。東京では地域の生産者やモノづくりに関わる方々とのイベント企画を、大分では東京での経験を活かしたイベント企画に加え、空き家から回収した家具の修繕など、より幅を広げて様々な活動をされていました。
「大分で夜な夜な地域の人が集まる場所があったんです。白橋さんともそのコミュニティの繋がりで出会い、偶然が重なって再会しました。僕は元々コミュニケーションが生まれる過程に興味があって。例えば、公園は遊具やベンチひとつ設置するだけでも様々な会話が生まれます。すでにあるものでも別の角度から面白がると新しいことが始まる。河原町繊維問屋街にお店を構えたのも、この場所は遊びがいがあると思ったからですね。自由にしていいとのことだったので、やってやるぞ!と。笑」

おふたりが再会して勢いを増した河原町での取り組み。同じく繊維問屋街にある飲食店『明るい未来』のオーナーなども加わり、この場を“広く知ってもらう活動”と“周囲の住民との関係性を深める活動”の2つをしています。
白橋さん「河原町繊維問屋街は、世代によって持たれている印象が異なります。50代くらいの方だと、少し危ないやんちゃなイメージがあったり。その上の世代になると、衣服屋がある頃を知っていたり。まずは今の問屋街を知ってもらうため、『河原町感謝祭』と称して子ども向けのお祭りや大人向けの夜市など、多くの人が集まりやすいイベントを開催していました。また、外へ向けたイベント以外にも繊維問屋街の借り手同士で屋根を修理したり、自治体の集まりに参加したり。この活動を長く応援してもらうために、近隣を巻き込んで関係性を築いていくことを大切にしています。」
最近では小学生が校外学習として遊びに来たりとじわじわと活動が実を結んでいるそう。

白橋さん「最終的には繊維問屋街に店を構える仲間が増えて欲しいと思っているので、今年はチャレンジショップの募集を計画しています。オーナーにも相談して、できるだけ柔軟に設備も条件も整えられたらいいなと。」
八重森さん「何もない空間で何かを想像するのは難しいので、挑戦するための土台を整えるのが、僕達の役目ですね。熱い想いだけ持ってきてもらえたら。クオリティも大切ではありますが、そこはあとからついて来ると信じています。」
白橋さん「八重森さんもそうでしたが、この建物を見た途端に目の色が変わる人がいるんです。ここに興味を持った人が挑戦して、ここから羽ばたいていく。その連鎖が続いていくことを目指しています。」
自分たちのことだけでなく、常にまちが楽しくなる方法を探っているおふたり。挑戦したい人だけでなく、移住者がまちのコミュニティにはいるきっかけづくりも計画しているそう。まずは河原町繊維問屋街へ足を踏み入れてみるところから、いろんな出会いが始まるのかもしれません。

熊本はどうデスク ライター紹介

矢野 仁穂
やの・きみほ/1998年生まれ。静岡県出身、東京を経由して社会人4年目にして熊本へ移住。不動産/飲食業の会社員を経て、編集者/ライターとして独立。食べることと書くことが好き。
熊本居住歴/2年