熊本市にある「子飼商店街」は、昭和の面影が色濃く残るレトロな商店街。ここでは定期的に「森の都園芸部」というプロジェクトの活動が行われています。誰でも参加可能で、その中には移住者の参加者も。多様な人々が集まる活動を取材してきました。

とある日曜日の朝10時。子飼商店街の空き地スペースに続々とメンバーが集まってきました。「森の都園芸部」は、空き地スペースを借りて毎週日曜日に活動を行っており、飲食店のオーナーや、会社員、教員、現役大学生とその顔ぶれはさまざま。この日は、敷地内に木々を植えるための穴を掘り、イベントスペースにもなっている広場へのスロープ作りをしていました。

穴を掘って、土を分け、石を取り、大きさを確認する。その一連の作業をコミュニケーションを取りながら、ああでもないこうでもないと作業を進めている様子は、さながら昔からの顔馴染みのような雰囲気ですが、お互いの年齢や職業もあまり知らないということに驚きました。

「プロジェクトを長く続けるためには、楽しくないとダメなんです」。
そう語るのは、発起人の和泉秀(いずみしげる)さん。福岡県北九州市からの移住者です。福岡の大学を卒業後、建築を学ぶために熊本大学大学院に進学。卒業後、福岡の一級建築士事務所で働きながら、子飼商店街の街づくりに加わり、2022年2月に街並みづくり会社「urban direction」を設立した和泉さん。どんな道のりで「森の都園芸部」に辿り着いたのでしょうか。
「大学院時代に学業の傍ら立ち上げたデザインラボで、家具の制作などをしていました。その時に、子飼商店街の衰退に対するご相談をいただいたんです。そのご相談から街並みづくりの活動へと発展して熊本を拠点とすることにしました」。
街づくりではなく「街並みづくり」とは何でしょうか。
「建築物だけでなく、そこにある人の生活やさまざまな物事どれもが街を形づくります。世界観のある街並みやコンセプトを作り、街の自慢や誇りを作っていくことだと思います」。
その街並みづくりの一つでもある「森の都園芸部」は2024年11月に発足した、出来立てほやほやのプロジェクトです。

「熊本市役所の取り組みの一つで“森の都熊本プロジェクト”というものがあります。熊本市中心市街地における緑を増やし、緑を感じられる空間を創出することを目的としているプロジェクトで、この活動を知った時に咄嗟に、子飼で展開したい!と声をあげました。子飼商店街には空き地があったし、そこですでにキッチンカーでコーヒー屋をしてる『colorful coffee』があったので、人が集うにはうってつけの場所でした。そこを緑でいっぱいにして、地域の人が行き交う場所にできればと、部を発足しました。
プロジェクトとなるとちょっと身構えてしまうと思うので、誰でも参加できるサークルのような雰囲気にしたく“部”の名称にしました。主に集まっているのは7名で10代から40代まで、年齢も職業もバラバラ。いずれは地域の人が自分たちで育てた花や緑を自然と手入れしていくような動きが生まれればいいなと思っています。そのために、ここで毎週日曜日に楽しそうに緑を増やしてるな、というコトを自ら起こしてるんです。そのうち地域の人たちが自然と参加してくれたら最高だなと思っています」。

子飼商店街にあるアジア料理屋『ASIPA』の小島利幸(こじまとしゆき)さんも、この活動の参加者のひとりです。大阪で生まれ3歳の頃に熊本に住まいを移し、19歳の頃に家族で東京へ移住。親戚が営むエスニック料理店で店長を務め、25歳の頃に別店舗のオーナーとなり、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックを機に、奥さんと子どもを連れて地元・熊本にUターンされました。
「子飼商店街は、小さな頃おばあちゃんとよく通っていた場所なんです。近くの黒髪地区ではひいおじいちゃんが文房具屋をやっていたこともあり、僕にとって馴染みのある場所です」。
思い入れのある土地でどのような出会いがあり、お店の開業、「森の都園芸部」への参加と繋がったのでしょう。
「2023年の冬に一度熊本に遊びに行った時、帰る予定の日にトラブルで帰れなくなって。その時に元々東京で働いていたエスニック料理店の創設者も来熊していて、いい物件も見つかって、いろんな偶然が重なり数ヶ月後にこの子飼商店街で店を開く事になったんです。加えて親戚が和泉君と知り合いということで繋がり、和泉君のやっている“街並みづくり”に共感できて、僕もこの活動に参加しています。


活動終わりには皆が僕の店でブランチを食べるんですよ。そこで情報交換をしたり、何でもない会話ももちろんします。街並みづくりを最初から“できない”と思うんじゃなくて、“できる”と発信したり伝えることで、変わっていくと思うんです」。
地域おこしのプロジェクトはさまざまあるけれど、「楽しむこと」を大切に街並みづくりをする、こんな素敵な活動があるのは熊本市の魅力の一つではないでしょうか。移住後、こういった活動に参加してみることで、日々の彩りがまたひとつ増えるかもしれません。

熊本はどうデスク ライター紹介

大塚 淑子
おおつか・よしこ/1985年生まれ。福岡県八女市出身。大学在学中より好きな写真を気まぐれに撮り集め、好きな文章とも関われる雑誌編集者を目指す。フリーペーパーの編集を経て、熊本の出版社『ウルトラハウス』に入社後副編集長を務める。
2019年よりフリーの編集者・フォトグラファー・ライターとして活動。
熊本住居歴/13年