縁もゆかりもなかった熊本市へ移住した、ある女性のお話
2020年初めから続くコロナ禍は、多くの人の価値観を変えるきっかけにもなりました。東京で歯科医師として忙しく働いていた嶋田さんも、その1人。空も見えないコンクリートの閉塞感から、自然とキレイな水がある場所へと飛び出したい。そんな思いを持った彼女が移住先として選んだのが熊本市でした。
コロナ禍をきっかけに、自然とキレイな水を求めて移住へ
ー 嶋田さんは生まれも育ちもずっと関東だったそうですね。なぜ移住したいと思ったのでしょうか?
生まれは埼玉県で、小学6年生で引っ越してからはずっと東京暮らしでした。進学も就職も東京です。特に東京から出る必要性を感じず、歯科医師として働きながら1人暮らしをしていました。
ところが2020年。世の中がコロナ禍に襲われたことで、当時働いていた場所に閉塞感を感じるようになり、「環境を変えよう」という思いが生まれました。最初は職場だけを変えるつもりでしたが、ふと、自分が住む賃貸の部屋を見返してみました。当時はマンションの1階暮らしで、窓が小さく薄暗くて、周りにビルが建っているので空も見えない…。コロナ禍の中で、この家に閉じ込められているような気持ちになったんです。それで、「それなら家も引っ越そうか?」「引っ越すなら、もっと自然豊かで水がキレイなところに住んでみたいな」「だったら、いっそのこと、東京を出てしまおう!」と視野が開けて、東京ではない土地への移住を検討するようになりました。
ー 全国各地に移住先の候補地があったと思いますが、どのように検討されましたか?
自然があって水がキレイな土地を探していました。とはいえ暮らす上での利便性も大事。自動車免許を持っていないので、車がないと不便な土地は候補から外しました。加えて、仕事がきちんと見つけられるくらいの街の規模も重視していました。
ー その中で、東京から離れた九州・熊本を候補に入ったきっかけは?
私自身は熊本を訪れたこともなく、縁がない土地だったんですが、兄が転勤で5年ほど熊本市で暮らしていたんです。それでよく兄から聞いていたのが、「水がキレイ、食べ物がおいしい、人もみんな親切」ということ。その3つがそろっていれば、移住先の条件として十分だと思って、熊本市への移住を検討し始めました。
水前寺成趣園の湧水の美しさに一目惚れ
ー お兄さんからの“口コミ”に惹かれたとはいえ、熊本市はまったく縁がなかった土地。どのように移住を進めたのでしょうか?
とにかく最初は、何から始めればよいのかも全く分からない状態でした。そこで、相談できる場所がないか探したところ、有楽町に全国各地への移住相談ができる「ふるさと回帰支援センター」があるのを知り、早速相談に行きました。そこで「熊本市UIJターンサポートデスク」につないでいただいたりと、いろんなサポートをしていただきました。
担当の方にいただいたアドバイスが、「住む場所よりも先に仕事探しから始めたほうがいい」、そして「まずは熊本市へ一度訪問してみた方がいい」ということでした。そこで、転職サイトで仕事探しを進めながら、3泊4日で熊本に旅行に行ってみることにしました。
ー 初めて訪れた熊本市の印象はいかがでしたか?
兄が水前寺に住んでいたので、まずは水前寺成趣園に行ってみたのですが、そこで水のキレイさにびっくり!東京にある庭園の池はどこも沼のようで底が見えません。でも、水前寺成趣園の池の水は、鯉のウロコまでくっきり見えるほど透き通っていて、しかも園内で水がこんこんと湧き出ている。感激して、ずーっと池の水を見ていました(笑)。
ほかにも兄オススメの金峰山へ赴きプチ登山をしました。さらに、バスで菊池温泉にも行ってみました。温泉地がこんなに身近にたくさんあることと、入浴料が安いことも驚きでした。何より行き帰りのバスの車窓から見た田園の景色が美しく、とても心に残りました。
馬刺しやラーメンをおいしくいただき、3日間を堪能しました。熊本市の雰囲気を肌で感じ、移住への気持ちがより前向きに。熊本市に良い印象しかありませんでした(笑)。
ー それで、熊本市への移住の準備もスピードアップされたんですね!
はい。幸い、条件が合う勤務先もスムーズに見つかり、あとは住まい探し。こればっかりは土地勘がなく探すのが難しいので、現地に住んでいる人が頼りです。
住居探しに熊本市を再訪した際には、「熊本市UIJターンサポートデスク」の池田さんに現地をご案内いただけることに。実際に住みたいと思っているエリアを一緒に周りながら、そのエリアの特性や、職場へ通いやすい交通機関のアクセスまで細かに教えてくれました。池田さんは東京から熊本にUターンした経験をお持ちなので、役立つ情報を共有してくださるので助かります。途中、オシャレなカフェでランチをしながらおしゃべりしたのも、楽しい思い出です(笑)。
このご案内があったおかげで、住みやすい家を見つけられました。移住を検討し始めたのが2020年8月頃、そして家が決まったのが12月、移住してきたのが翌年2月。想像していたよりもスムーズに、かつスピーディに、移住が叶いました。
何気ない景色に見惚れる時間が、心の栄養に
ー 熊本市へ移住されて丸1年。暮らしはどのように変わりましたか?
東京時代は毎日仕事に追われ、暗くて狭い家に帰宅。家の事をいろいろやっている内に寝る時間になって、起きて、また仕事。休日は、ただ疲れを取るために家でじっとしている…。その繰り返しで、「何のために生きているんだろう」って思ってしまうような苦しい日々を過ごしていました。
ところが今は、明るくて広い部屋に帰宅できる。仕事が忙しくても、それだけで不思議と心がほぐれていくんです。休日は家にいることが多いんですが、前と違うのは部屋には大きな窓があって、そこから広い空が見えるんです。空気や風の香りから季節を感じられてほっとしています。心にゆとりが増えて、すごく豊かな日々を過ごせていると実感しています。
そして、大好きな水前寺成趣園の年間パスポートを購入して、月に2〜3回は足を運んでいます。散策中は、木々や花やキレイな水、そこで泳ぐ鯉をぼーっとみていることが多いです(笑)。至福の時間です。
ー 車の免許をお持ちではないそうですが、暮らしに不便はありませんか?
今勤めている歯科医院のシフトで、毎週2日間は八代市、残りは東区の医院に通勤しています。市電やバス路線が豊富な地域を選んだので、通勤は苦労していません。熊本市はキレイなシネコンがたくさんあるので、映画を観に行くことが増えました。そこまでのアクセスが良いところも気に入ってます。
ー 第一印象から良いイメージを持っていた熊本市。暮らしてみて改めて感じる魅力は?
毎日、「引っ越してきて良かった〜」って思いながら暮らしていて(笑)、語り尽くせないんですが…。やっぱり食べ物のおいしさが素晴らしいです。しかも安い!スーパーで何気なく買える野菜や果物の鮮度の高さにも驚きますし、刺身もプリプリしておいしい!東京で食べていた刺身とは全然違います。
あと、地元の方になかなか共感してもらいにくいのですが、イチョウの葉の黄色の鮮やかさに驚きました。きっと排気ガスが少ないからでしょうね。熊本に来て、木々や草花、何気ない雑草なんかが目に留まることが増えたように思います。八代への通勤途中に見る田んぼや、い草畑の景色に毎日感激して、スマホのフォルダは田園の写真や動画でいっぱい。職場の人にとっては当たり前の景色のようで、「なんでこんな景色を撮っているの?」とよく聞かれます(笑)。本当に、日々、いろんな些細なことに感動しています。
利便性については、スーパーが24時間営業のところや、遅い時間まで開いているところが想像よりも多いと感じました。市内は病院や医院も多く、医療体制が充実している安心感もありますね。
ー 熊本市に来て良かったと毎日思っていただけて、とても嬉しいです。熊本市へ移住したいけど踏み出せない、という方へのメッセージをお願いします。
迷っているのなら、まずは一歩踏み出してみるべきだと思います!もし、「移住ダメだったな」と思ったとしても、そのときは元の場所に戻ればいいのですから。
熊本市の住居は東京と比べて家賃が半分以下なのに部屋が広いんです。そこは踏み出しやすいポイントです。よそ者を拒むような雰囲気を感じたことはないし、気さくにコミュニケーションが取れるので、分からない熊本弁があっても大丈夫ですよ。水がキレイで食べ物がおいしい。車がなくても温泉や天草、阿蘇のようなレジャーが楽しめる場所へのアクセスが充実していて、遊びに行ける場所もたくさんあります。
まずは一度熊本市に来てみて、この魅力を体感して、移住を検討してほしいと思います。
水前寺成趣園
住所:〒862-0956 熊本県熊本市中央区水前寺公園8-1
※記載の情報は、すべて取材時のものです。